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TVアニメ『メイドインアビス』の音楽の秘密に迫る!音楽プロデューサー・飯島弘光氏インタビュー

メイドインアビス
深夜アニメのサウンドトラックとしては異例の品切れ続出が続いております。
私が第一話を見て素晴らしい音楽に心を奪われたように、この作品の音楽に感銘を受けた視聴者が多数いることに嬉しさを感じられずにいられません。



以下はメイドインアビスの音楽製作に当たる逸話のインタビューになります


漫画家のつくしあきひとによるウェブコミックを原作としたファンタジー作品『メイドインアビス』。制作はキネマシトラス、監督は『MONSTER』『ブラック・ブレット』などの小島正幸が務めており、秘境の大穴〈アビス〉を舞台としたスリリングなストーリー展開や、キャラクターデザインの黄瀬和哉美術監督の増山修といった一流スタッフによる美麗な絵作りなど、2017年夏クールの注目作として話題を集めた。

そして、本作のオリジナルサウンドトラックが9月27日にリリースされる。劇伴を手がけたのが、オーストラリア出身の作曲家であるケビン・ペンキン(Kevin Penkin)。オーケストレーションシンセサイザーを融合させた彼の音楽は独創的ながら、ハードなファンタジー世界にしっくりと馴染み、サントラ作品としても非常に優れた内容になっている。今回は、彼が所属する音楽プロダクション・IRMA LA DOUCEのディレクターであり、『メイドインアビス』の音楽プロデューサーでもある飯島弘光にインタビュー。その音楽に込めたこだわりについて語ってもらった。



――まず、飯島さんが『メイドインアビス』に関わることになった経緯を教えてください。

飯島弘光 小笠原(宗紀/キネマシトラス代表)さんとは以前からお仕事をご一緒させていただいていたのですが、まだ『メイドインアビス』の制作が具体的に固まっていない段階から「10周年にあたり力を入れている作品がある」というお話は聞いていたんです。それが2年ぐらい前のことだったんですけど、そこからやっと制作がスタートできることになった段階で、改めてオファーをいただきました。

――ケビン・ペンキンさんを起用された理由は?

飯島 実はケビンと僕は、小笠原さんから紹介していただく形で出会ったんです。ケビンはオーストラリア出身で、今はロンドンに在住なんですが、僕が最初に出会った2年前はまだ大学院を出たばかりで、社会人としての経験が少なかったですし、日本のコンテンツに関わるのであれば言語の問題もあるので、そのあたりのハンドリングができる人間ということで、僕に託していただいて。そこから僕がやっているIRMA  LA DOUCEの所属になったんです。

――なるほど。おふたりは同じくキネマシトラス制作のTVアニメ『ノルン+ノネット』(2016年)の劇伴も担当されていますね。

飯島 あの作品が、僕とケビンが一緒にやった初めての長編アニメーションの仕事ですね。ケビンはそれまでゲーム畑の人間で、元々は〈ファイナルファンタジー〉シリーズの植松伸夫さんやその周りの人たちと繋がりがあったんです。「NORN9 ノルン+ノネット」(『ノルン+ノネット』の原作ゲーム)の音楽も植松さんとのダブルネームで担当していたので、その流れもあってTVシリーズの音楽も手がけることになったんですよ。そのときにディレクターと作家という立場で初めて一緒に仕事をして、彼とのパートナーシップを築いていったわけです。

――そこから今回の『メイドインアビス』の話に繋がっていくんですね。

飯島 はい。ケビンとは『Under The Dog』(2016年)というOVA作品の音楽も作ったのですが、それの完成に合わせて去年の8月にケビンが来日したので、そのタイミングで『メイドインアビス』の最初の打ち合わせをしたんです。キネマシトラスとしても、音楽でも個性的なものを残したいというお話だったので、最初からテンションは高かったですし制作期間もたっぷりあったので、じっくり作り込むことができました。



――飯島さんは『メイドインアビス』という作品自体にどういったイメージをお持ちですか?

飯島 原作の漫画はファンタジーものとして非常に読み応えがありますし、これはケビンも同じ感想なんですけど、とてもビジュアル的なカラーがある部分に惹かれました。お話自体もちょっと変わったスタンスに挑まれていたり、前半と後半でシナリオの雰囲気がどんどん変わっていくので、そういう強い作家性に驚かされると同時におもしろく感じました。

――そんな作品の音楽を手掛けるにあたって、どのように音楽のイメージを組み立てていったのでしょうか?

飯島 今回の作品は音楽的にもチャレンジングなことができそうな機会だったので、最初の打ち合わせの前に僕とケビンで話し合って、あらかじめ2人の中でのある程度のコンセプトを考えてプレゼンしたんですよ。そのコンセプトというのは〈ミニマリスティック〉と〈トライバル〉というもので、僕の中では〈『メイドインアビス』という作品にはこれだ!〉みたいな変な自信のようなものがあったんです(笑)。

――その〈ミニマリスティック〉というのは、いわゆるクラシック音楽の文脈から派生したミニマル・ミュージックのことでしょうか?

飯島 いえ、僕はもともとダンス・ミュージック畑の人間なので、もともと〈ミニマル〉といえばテックハウスのイメージだったんですよ。いわゆるテクノとかのシーケンスで作られた音楽のイメージなんですけど、例えばポスト・クラシカルとか現代音楽のなかには、その要素を落とし込んだクラシック音楽がけっこうあるんです。『メイドインアビス』の作風やイメージを音楽に置き換えたときに思い浮かんだのが、そういったジャンルだったんです。

――では〈トライバル〉というのは?

飯島 〈トライバル〉というと、どちらかというとアジアやアフリカ的なイメージがあるかもしれませんが、僕が考えているのは、それらの要素がUKやヨーロッパのダンス・ミュージックに落とし込まれたテクノやハウスのことなんです。そういうトライバル・テクノで使用されている楽器の怪しさみたいなものは、『メイドインアビス』のダークな部分ともマッチングすると思っていて。あとは〈環境音楽〉みたいなところも考えましたね。僕の中での勝手なイメージですけど、(『メイドインアビス』の)背景の雰囲気が環境音楽っぽくないですか?その3つのモチーフにケビンも共感してくれて、そこから音を広げていった感じですね。



――ダンス・ミュージック的な発想から生まれたというのは意外でしたけど、お話をうかがうと合点がいきますね。

飯島 ミニマリスティックなテクノというのは非常にコアで、聴きながら自分に問いかけるような部分もありますし、アシッドとはまた違う真面目で暗いサウンドじゃないですか。そこは『メイドインアビス』にもあるのかなあ、という勝手なこじつけです(笑)。もちろんそれだけではなく、バリエーションのなかには美しいメロディーの楽曲も意識して入れていますけど。

――それらのテーマをケビンさんなりに消化して生まれたのが今回の劇伴になると。

飯島 ケビンはそこまでダンス・ミュージックを通ってないですからね。彼はもともと本格的なクラシックを勉強していましたし、軸がしっかりしているので、ベーシックの音楽を作ることにおいては本当に素晴らしいサウンドで何の問題もないんですよ。あとはどういう風に新しいことにチャレンジしていくかということなので、僕は「こういうのはどう?」と彼と話し合いながら、構築していくようなバランス感で作っていきました。

――ケビンさんにとっても新鮮な作り方をされたんですね。

飯島 それと今回はアナログシンセというのもひとつのテーマとしてあって。ケビンはいろんなアナログシンセを持ってるんですけど、あるとき彼がフォルテック(Folktek)というサイトを見せてきて、ここで制作しているアナログ機器が良いと言うんです。それはナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーが『ゴーン・ガール』(2012年公開の映画)のサントラを作るときに使ったガルテン(Luminist Garden)という機材なんですけど。僕もこれはアビス的だなあと思ったので、すぐに、その機材を入手して、実はいろいろなところで細かく実験的に使ってるんですよ。



――それと今回はウィーンのスタジオ(Synchron Stage Vienna)でレコーディングされたことも大きなトピックだと思いますが、こちらを録音地に選んだ理由は?

飯島 いつもそうなんですけど、誰かと関わらないと広がりが生まれないですし、ケビンもまだ若いので、彼が次のステップに上がれるようになにかおもしろいことをしたいと思っていて。それで彼に「オーケストラはどういうサウンドでやりたいの?」と聞いてみたら、彼が以前にワークショップでお世話になったスタジオで先生と一緒にやりたいという話で。そこがウィーンのスタジオだったんです。

――なるほど。実際にウィーンでレコーディングしてみていかがでしたか?

飯島 まず個人的感想で、例えばアメリカで録るのとは全然違うと思いました。例えばLAだとエンタメの街なので演者もみんなバシッとした音で決めるような印象なんですけど、ウィーンはそういう感じではないんですよ。すごくクラシカルである意味では悲しい音なんですよね。エモーショナルで、温かみがあるものというか。まあ、ケビンはあまりそう思っていなくて、非常にしっかりしたプレイだと言っていましたけど、そこは人によって感想が違ってくるので難しいですね。

――レコーディング時に印象に残ってるエピソードは?

飯島 今回はケビンが初めてコンダクター(指揮者)を担当したんですけど、初日は彼もすごく緊張していて、音からもその緊張感が伝わってくるぐらいだったんです。だから実は現場での試行錯誤がいろいろありました。それとサウンドが僕の思っていたものより線の細いイメージで、ものすごく繊細な音だったんです。最初はそのことにすごくビックリして、少し心配なところもあったんですけど、ミックスの段階で音を積み重ねていくと素晴らしいものになって、非常に驚きました。たぶんマイキングの違いとかもあるんでしょうけど、これがクラシックの録り方なんだと思いました。

――また、今回の劇伴には2曲の男性ボーカル曲があるのも印象的です。1話目でメインテーマ的に使われた「Underground River」では、『WOLF’S RAIN』(2003年)の劇中歌への参加などで知られるラージェ・ラメイヤ(Raj Ramayya)さんを起用されていますね。

飯島 あの曲は、監督から1話のメインテーマになるような曲がほしいというお話をいただいて試行錯誤していたときに、ケビンが自分で歌った曲をポッと送ってきたんですよ。僕が作ったオーダーシートに歌のことは書いてなかったので、これは僕にとっても良いサプライズで。ケビンは『ノルン+ノネット』のときにも指定とは違う自分が歌った曲を送ってきたことがあって、「えっなんでダメなの? 菅野よう子さんもやってるじゃない」って言うんですよ(笑)。本当ににそうだなと思いましたし、彼がやりたいと思ったことは大切にしたいと考えて、歌ものをやることになったんです。

――そうだったんですね。

飯島 これは実現しなかったんですけど、最初はSE的な「アビスの声を作ってほしい」という話もしていて。なぜなら『メイドインアビス』のダンジョンはそれ自体が生きてる感じがしたし、漫画だと〈ゴオオオオ〉みたいな擬音が入ってるので、それを声で表現できないかなと思ってたんです。そういう話もあったので、今回は劇伴に声をつけるなら男性の中性的な声というイメージが最初からあって。「Underground River」に関しては、ケビンの歌がけっこう上手かったので、僕はケビンのままでいいと思ったぐらいなんですけど、本人は誰かとコラボレーションがしたいと言ったんです。それで誰がいいのか聞いてみたら、ラージェさんがいいということで。彼は中学生のときに『WOLF’S RAIN』でラージェさんを知ってから大好きらしいんですよ。そのストーリーはいいなと思って、僕からラージェさんにコンタクトを取って実現しました。



――なるほど。もう一曲の「Hanezeve Caradhina」は?

飯島 もうひとつケビンがコーラスとして歌ってきた曲があったんですけど、それはもっと中性的な男性の方に歌ってもらいたいと思ってたんです。で、僕は北海道の札幌出身なんですけど、10代から20代にかけてバンド活動をしていた時期があって、そのころに対バンした斎藤 洸(SNARECOVER)さんという方がめちゃくちゃ歌の上手い方なんですよ。いつか一緒にやりたいとずっと思っていて、なおかつこの曲はなんとなく北の人に歌ってほしいというのもあったので(笑)、10年ぶりくらいに連絡しました。

――たしかにこの曲は北欧っぽいというか、シガー・ロスアイスランドのバンド)にも通じる雰囲気がありますよね。

飯島 まさにそういうイメージですね。僕はアイスランドスウェーデンのように寒い地域の人は、内向的な音楽を作る傾向が強いと思っていて、斎藤さんもそのケースの方だと思うんです。ケビンも最初は「斎藤さんって誰ですか?」という感じだったんですけど、セッションで斎藤さんにハイトーンを出してもらったら、すぐに「彼はすごい!」ってなりました(笑)。

――歌詞の内容も気になるところですが…。

飯島 斎藤さんは英語では歌えないし、作品的に劇伴として日本語の曲は避けたかったので、彼にはアイスランド語とドイツ語のコンパチというイメージのいわゆるハナモゲラ語で歌ってもらいました(笑)。アビス語の雰囲気になればいいかなと思ったんですけど、普通にラララと歌うよりかはトラディショナルなイメージになりましたね。

――曲名も含め実在しない言語だったんですね(笑)。この曲は1話目の朝日が昇ってくるシーンと、8話目のラストでも使われていて、作品のなかでも印象に強く残る曲になっています。

飯島 僕も最初はそうなると思ってなかったんですけど、監督が気に入って使ってくれたみたいで。作品にとってすごくいい効果になってるんじゃないかと思ってます。最初のバージョンではわりと普通に終わってたんですけど、もっとシューゲイザーっぽくどんどん盛り上がっていく感じにしたいと思って、ビートを足したりとかもしました。

――どの楽曲も『メイドインアビス』の世界観にマッチしてますし、音楽単体で切り取っても素晴らしい劇伴作品に仕上がっていると思います。最後に、飯島さんはアニメ以外にもCMなどいろんな音楽の制作に関わられていますが、アニメ音楽ならではだと思う魅力があれば教えてください。

飯島 アニメーションは主観的な想像力をかきたてられるというか、想像するほどおもしろいという印象はあります。あらかじめビジュアルのある実写と違って、アニメの場合は元がコンテしかないので、絵や動きはほぼこちらで想像するしかないんです。だからさっき僕が言ったみたいに〈この絵にはこの音楽だ!〉みたいにある程度決め付ける楽しさもあるし、最初の段階ではそういう自由度の高いスタンスで作れると思います。そこはヒューマンドラマであってもファンタジーであっても同じことで、そういう部分から始める音楽作りは楽しいですし、たぶんケビンも同じように感じていると思います。

Hanezeve Caradhina (ft. Takeshi Saito)

Hanezeve Caradhina (ft. Takeshi Saito)

  • Kevin Penkin
  • アニメ
  • ¥250
Underground River (ft. Raj Ramayya)

Underground River (ft. Raj Ramayya)

  • Kevin Penkin
  • アニメ
  • ¥250